ただ、全国でも同じような現象が起きていました。肥育農家の増加の規模拡大です。そして円高による輸入飼料価格の下落にっよて、いっきに素牛不足、素牛高騰に向かいました。もう市場では、なかなか六ヶ月齢の子牛はそろわなくなり、長年の懸案であったほ育育成に取り組み始めたわけです。
 ちょうど妻を迎えて二ヶ月後のことでした。二人で、ヌレ子を入れるハッチを作りました。ハッチとは、犬小屋を4〜5倍に大きくしたようなもので、当時、農業雑誌に載っていた設計図をもとに九州向きに風通しのよいものに工夫しました。ヌレ子は事故率が高いので、これまでの数倍神経を使うようになりました。ハッチは舎外の新鮮な空気の中に設置するために、呼吸器系の病気には効果がありましたが、消化器系の病気には悩まされました。それで、獣医さんや家畜保健所との連絡を密にとりながら、哺育技術の習得に努めました。また、四十坪の育成舎と百坪の肥育舎を、古電柱や廃材を利用し、両親の協力を得て家族で作り上げました。
 そして、ヌレ子から育て、粗飼料を多給した理想的な素牛ができ、肥育成績は枝肉重量品質ともに向上していきました。

 ホルスタインの哺育一環肥育が軌道に乗り自分なりに肉牛経営に自信が持てた頃、自由化の声が聞こえてきました。自由化といってもピンと来なかったのですが、「自由化になれば自分の経営はどうなるのだろう」という様々な憶測がかけめぐりました。一般に言われたのが「和牛肉は大丈夫だが、乳用種は危ない」ということでした。ただ現場においては「乳用種でも輸入物とは競合せず、棲み分けができるのではないか」という意識が根強くありました。確かに自由化決定後も、枝肉相場と素牛相場は上昇を続け、当初の予想は外れたかに思えました。が結果的に見れば最初の予測の中の最悪のケースが当たったと言えます。自由化2年目の現在、平均販売額は生産原価を大幅に下回る赤字が続いています。
 自由化交渉が本格化してくると私にも危機感がでてきて、さらなる肉質の向上を目指しました。九州・中国地方の優良農家へ徹夜で車を飛ばし視察を重ねたり、東京で行われた全国規模の講習会に出席したりしました。そして、仲間との真剣な討議の中から、「どういう条件のもとで高品質牛が育っているか」という共通項を見つけました。
 飼料も各地方、各農家でそれぞれ異なっていましたが、サンプルをもらってきて、フルイにかけて配合割合を調べたり、飼料工場で成分分析をしてもらったりして研究しました。そしてこれまで使ってきたビール粕をベースに10数種類の単味飼料、糖蜜、発酵菌、アルコールなどをブレンドし、数日間熟成させた独自の自家配合を完成させました。この配合は消化率が よく飼料効率が上がり牛の増体、肉質両面によいことが実証されつつあります。昨年あたりから和牛に匹敵するような高品質の牛がたびたび出るようになりました。・・・・・・・

  つづく